Googleマップをいくらスクロールしても、その店の名前は出てきません。15時過ぎ、ランチを食べそびれて絶望していた私たちが、タイの道端で「もう何でもいいや」と投げやりに駆け込んだ、名もなき複合屋台。
クイッティアオ(麺)もあればカフェもあり、なぜかハンバーガーまで焼いている。そんなカオスな場所で出会った「59バーツ(約250円)の奇跡」について、少しだけ語らせてください。
「安っぽさ」を「究極」に変える魔法
正直に言いましょう。グルメ通が唸るようなこだわりなんて、そこには1ミリもありません。
バンズは、スーパーで売られている安価な市販品。
ソースは、これまたどこにでもあるチープなマヨネーズとケチャップ。
本来なら「決して美味しいとは呼べない」部類に入るはずの食べ物です。でも、私たちは一口食べた瞬間に黙りました。脳が直接「美味い」と指令を出してきたからです。
そこには、どんな高級店も、どんな有名シェフも敵わない「最強の調味料」が隠されていました。
それは、「物理的距離ゼロ」で提供される、狂気的なまでの熱量です。
寿司やラーメンと同じ「秒」の芸術
この店は狭い。驚くほど狭い。 だからこそ、目の前の鉄板でジューッと焼かれたチキンが、そのままバンズに挟まれ、1秒後には自分の手の中にあります。
一般の店舗では、キッチンからテーブルへ運ぶ数メートル、あるいは店員がトレイに乗せる数秒の間に、少しずつ「命」が漏れ出していきます。でも、この屋台にそのタイムラグは存在しません。
「できたてホヤホヤ」という概念の、さらに先。
ちゃきちゃきの日本人の舌をもってしても、熱すぎて存分に頬張ることができない。蒸気でバンズがしなる暇さえ与えない。 寿司やラーメンにおいて「鮮度」が命なのは常識ですが、この店はハンバーガーでそれをやってのけているんです。
たった10秒で失われてしまう最高の瞬間を、ダイレクトに胃袋へ。 その圧倒的なライブ感の前では、バンズの質もソースの安っぽさも、もはやどうでもいいスパイスに過ぎませんでした。
誰も知らない、教えられない。
残念なことに、この体験を皆さんに共有するための「場所」を、私は示すことができません。Googleマップにすら載っていない、地図の空白地帯にその屋台は存在しているからです。
SNSでバズっている有名店を巡るのも楽しいけれど。 たまにはスマホを閉じて、道端の煙に誘われてみる。そこには、デジタルでは絶対にたどり着けない、「0秒の鮮度」という究極の贅沢が転がっているかもしれません。

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